心理的ストレスは朝の方が大きい
誰かに何か悪いニュースを伝えなければならないのとしたら、いつ話を切り出すのが良いだろうか?
思い切って朝一番に伝えるのがいいだろうか?
それとも仕事や学校がひと段落した夕方や夜の方がよいか?
新たな研究によると、悪い話を聞かされた相手の心は朝の方がいっそう苦しむのだという。それではやはり悪いニュースを伝えるのは夜の方が良いのか?
ストレスホルモンは1日の中で増減する
心理的なものであれ、物理的なものであれ、脅威がすぐに消えないような場合、「視床下部」「下垂体」「副腎皮質」で構成される脳のトリオ「HPA軸」が信号を交わし合い、ストレスホルモンとして知られる「コルチゾール」が分泌される。
するとコルチゾールの作用で、エネルギー源としてのグルコース(ブドウ糖)が血流に放出され、筋肉に戦いや逃げる準備をさせる。これがストレス反応だ。
だが、コルチゾールの量には1日の中で増減する。
健康な人なら一般に朝、目覚めるときにコルチゾールが一気に増え、あとは1日を通して徐々に減っていく。
他にも年齢、性別、睡眠パターン、運動の週間、日頃からのストレスレベルなどの影響により、コルチゾールの量が変化する。
こうした要因があるために、ストレスを1日のどの時間によって受けたかで、コルチゾールが増加する割合に違いがあるだろうと推測することができる。
唾液からコルチゾールの量を測る実験
これを確かめるために、北海道大学の山仲勇二郎氏らは、一般的な睡眠サイクルを持つ(極端に夜更かしだったり、朝が早かったりしない)健康な被験者(男性20名、女性7名)を集め、ある実験を行なった。
実験ではまず、被験者から2時間毎に唾液を提供してもらい、1日のコルチゾールレベルの通常の変化が評価された。
次いで被験者には、起床後2時間あるいは10時間後のいずれかのタイミングでストレス体験が与えられた。
ストレス体験は、面接官に対してプレゼンテーションを行ったり、暗算をしたりという、この手の実験ではよく使われる標準的な社会ストレステストである。
この体験の前、および体験後30分にわたり10分間隔で唾液のサンプルを回収した。
朝の方が心理的ストレスに強く反応する
こうしてストレス体験によるコルチゾールの変化を確かめたところ、朝にストレス体験をした被験者ではコルチゾールレベルが有意に高まっていることが分かった。
一方、夕方にその体験をした被験者ではそれほど変化がなく、統計的に意味のある結果は得られなかった。
山仲氏によると、HPA軸は夕方よりも朝の方が急性心理ストレスに対して強く反応するように見えるという。
動物実験の結果からは、一般に1日の遅い時間になるほど、副腎皮質が副腎皮質刺激ホルモン(コルチゾールの放出を促す)に反応しにくくなることが原因である可能性が示唆されている。
結局、嫌な話は朝と夜のどちらに伝えればいいのか?
さて、ここで冒頭の疑問、嫌な話を伝えるなら朝と夜のどちらがいいかという話に戻ろう。
相手の心的ストレスを考えたら、朝よりも夜に伝えたの方がよさそうだ。
山仲氏が説明しているように、夜に近づくとコルチゾールが上がらず、そのためにグルコースが入手されないのなら、遅い時間は人体の脅威に対応する力が弱くなっているということだ。
そのストレス源がただちに危険になるようなものではないのだとしたら、コルチゾールがあまり増えないに越したことはないかもしれない。
逆に早急に対応を迫られるほどの危険なニュースなら、例え相手がストレスを感じても直ぐに伝えた方が良いだろう。
実際のところ、実生活での影響はまだはっきりしていない部分も多く、こうしことを勘案すると、問題への答えは「時と場合による」ということになる。
この研究は『Neuropsychopharmacology』に掲載された。