男「どうもありがとうございました」
1:名無しさん@おーぷん:2015/04/28(火)23:20:11 hBv
キィィ…キィィ…
ギーコ、ギーコ
男「………」
男「………」
キィィ…
ギーコ、ギーコ
男「………」
男(……揺られてる…心地いい…)
男「………ん?」
ガバッ
2:名無しさん@おーぷん:2015/04/28(火)23:22:27 hBv
キィィ…キィィ…
男「………」
男「………なにここ」
ザップ、ザップ、ザップ
男(一面ピンク色…湖?かな)
男(……湖以外に何もない)
ザップ、ザップ
男「………」
「どうも」
男「あ、どうも………ん?」
バッ
3:名無しさん@おーぷん:2015/04/28(火)23:24:40 hBv
女「どうも、お目覚めですか?」
男「………」
男(誰だろう、でも、会ったことある気がする)
キィィ…キィィ…
男(いつの間に…この人が、このいかだを漕いでいたのか)
男「………こんにちは」
女「こんにちは」
ザップ、ザップ、ザップ
4:名無しさん@おーぷん:2015/04/28(火)23:29:10 hBv
キィィ…キィィ…
男「………」
女「…」
男「……あの、すいません」
男「ここは、一体どこなのでしょう…というか、あなたは……」
女「ここは、あなたがよく知る、あなたが一番心地の良い場所です」
ザップ、ザップ、ザップ
男(…一面ピンクの湖、それ以外全く何もない場所……いや、知らないな)
男「すいません、心当たりがなくて……
でもなんだか、心地がいいのは確かなんですけど」
女「ええ」
ギーコ、ギーコ
5:名無しさん@おーぷん:2015/04/28(火)23:31:50 hBv
男「……」
女「……」
男「えっと……僕、実は…あれ?」
男(僕はなんで、ここに居るんだ…?全く思い出せない)
女「……細かいことは、いいじゃないですか」
男「え?」
女「ここが、居心地がいい場所。その場所にいる。
それでいいじゃないですか、前後のことなんてどうでも」
男「……」
6:名無しさん@おーぷん:2015/04/28(火)23:32:18 vjN
赤潮かな?
7:名無しさん@おーぷん:2015/04/28(火)23:36:20 hBv
男(そう言われてしまうと、そんな気もしてきた…)
ザザ…ザザ…
ザップ、ザップ、ザップ
男「……」
女「……」
男「……」
女「どうです?」
男「えっ?」
女「ここはどれくらい居心地がいいですか?」
男「ええ…そうだなあ」
男「とてもいい、です。
なんだか、全ての疲れとか嫌なこととか、忘れてしまいそうです」
女「そうですか……では、あなたは嫌なことを経験しているんですね」
ザップ、ザップ
男「………え?」
8:名無しさん@おーぷん:2015/04/28(火)23:39:43 hBv
男「…そうなんですかね」
女「嫌なこと、忘れてしまうくらい心地がいいとおっしゃってましたけど」
男(嫌なこと…いやなこと……なんだっけ)
男「えっと……うーんと」
ザップ、ザップ、ザップ
男(なんだっけ…)
女「あなたは、どんな嫌なことを経験したんですか?」
男「………」
9:名無しさん@おーぷん:2015/04/28(火)23:42:08 hBv
男「えっと……嫌なことって、なにか例えとか…あります?」
女「え?」
男「あ、いや、確かに嫌なことは経験したんです。
でも、それがどうしても思い出せない」
男「嫌なことって、なんだっけと思いまして」
女「………じゃあ、忘れたままでいいんじゃないですかね」
男「…なぜ?」
女「思い出す必要は、あるのでしょうか」
11:名無しさん@おーぷん:2015/04/28(火)23:46:01 hBv
女「わざわざ、胸が痛くなるような気持ちを
思い出すなんて、嫌じゃないですか?」
男(確かに、そうかもしれないな……
でも、なんでだろう。これは、忘れちゃいけない気がする)
男「まったく、根拠はないんですけど…今の僕に、
必要なものなんじゃないかなって。だから、思い出したい」
女「……そうなんですか」
男「はい」
女「でも、申し訳ないんですけど、私はあなたの嫌な思い出を知りません」
男「え、そうなんですか」
12:名無しさん@おーぷん:2015/04/28(火)23:50:48 hBv
女「はい」
男「……」
女「……」
男「……」
女「………タイムマシンって、知っていますか?」
男「え、ええ。知ってます」
女「あなたは、過去と未来に行けるとしたらどちらに行きたいですか?」
男「突飛ですね」
男「………うーん、わからないなあ。
過去は今思い出せないし、未来はわからないし」
13:名無しさん@おーぷん:2015/04/28(火)23:58:02 hBv
じゃぷ、じゃぷ、じゃぷ
男「でも…どっちも行きたくないかな。
過去を変えたら今生きてる僕がいなくなってしまいそうだし、
未来の自分に期待している…し」
女「そうですか」
男「ええ」
女「……自分のこと、好きですか?」
男「あいにく、自分のことを全く思い出せなくて…今は顔もあやふやで」
じゃぷ、
男「……この湖は、何も映さないんですね。空も、いかだも、僕もあなたも」
女「映してしまったら、いけないんです」
ギーコ、ギーコ、ギーコ
ザップザップ
男「……」
女「……あの、」
14:名無しさん@おーぷん:2015/04/29(水)00:01:51 8jt
男「なんでしょうか」
女「私、あなたにプレゼントを持ってきたんです」
男「そう、ですか。一体何を?」
女「物じゃないんです。チカラと、強さと、権力です」
男「……」
女「……」
男「……なぜまた、そんなものを?」
女「あなたに必要かと思って。欲しくないですか?
チカラと強さと権力。生きやすくなりますよ」
女「忘れてしまった嫌なことだって、経験しなくて済む」
15:名無しさん@おーぷん:2015/04/29(水)00:06:02 8jt
男「……」
男「あの、こう言ってはなんですけど。他にはなにかないですか?」
女「他に?とは?」
男「うーん、チカラと強さと権力、以外のもの…」
女「……えー」
女「……優しさがあります。優しさと、暖かな心と、勇気があります」
男「僕、そっちがいいな…」
女「な、なんでですか?」
男「うーん…チカラと強さと権力は、なんだか人間らしくない気がして」
16:名無しさん@おーぷん:2015/04/29(水)00:11:06 8jt
男「たとえば僕に、好きな子ができて、
でもチカラと強さと権力じゃ愛してあげることができない。
優しさがあれば、お互いを分かり合える」
男「そんな気がします」
ギーコ、ギーコ……
女「……そうですか」
女「でも、それではいけません。世の中の理に負けてしまいます。なので…」
女「鋭い目つきと、恐い顔をプレゼントしましょう。
そうしたら、たくましく生きていけますよ」
男「……」
男「……うーん、いらないなあ」
女「えっ…」
17:名無しさん@おーぷん:2015/04/29(水)00:18:19 8jt
男「争い続けなければならない猛獣だったら、嬉しいんですけど…
…でも、本来争いごとは避けるべきな人間なので」
男「鋭い目つきも恐い顔もいらないです」
女「……では、どんな顔ならいいんですか?」
男「そうだなあ…人間らしい顔をしていればいいです。
平和で、穏やかで、誰にも似つかない顔をしていれば嬉しい」
女「そうですか…」
男「はい」
女「で、ではうんと背を高くしましょう。それから体は大きく、足はガッシリ」
18:名無しさん@おーぷん:2015/04/29(水)00:23:38 8jt
女「それから心臓を、もうひとつつけましょう。あ、あと脳ももうひとつ」
男「……」
女「必要でしょう?平和だからといって、やはり強靭でなくてはなりません。
たくましく生きるべきです」
男「……いりません、全部。心臓も脳もひとつでいいし、
身長はちょっと低めくらいでいいし、体の大きさもいりません」
女「……」
男「そんなにたくましくなってしまったら、一人でも生きていけます」
女「え…?ええ、一人でもちゃんと生きていけますよ」
19:名無しさん@おーぷん:2015/04/29(水)00:29:39 8jt
男「でも、それは寂しい」
男「心臓は、片方だけでいいんです。右側の寂しさを持って、生きていきたい。
心臓は左にあるけど、右は愛する人と触れ合って寂しさを埋めていきたい」
男「脳も、少し足りないくらいでいいんです。考えて考えて、
でもわからなかったら聞く。その、聞く勇気を持ちたい」
男「身長は高いと、他の人との距離を感じてしまいます。
愛する人と、なるべく近くにいたいです」
ギーコ、ギーコ、ギーコ
ザップ、ザップ…
女「……」
男「なにも要りません。ただ、人を愛する気持ちがあればいいです」
ザザ…ザザ…
20:名無しさん@おーぷん:2015/04/29(水)00:33:21 8jt
女「……」
男「……」
女「……私は…」
ギーコ、ギー……コ…
ちゃぷ…
男「……え?」
女「……なにも、あげられないのね」
ぎゅう
男「……」
女「あげられるものは、ないの」
男「……そう、ですか」
21:名無しさん@おーぷん:2015/04/29(水)00:36:00 8jt
男「……」
女「……」
男「……懐かしい、匂いがする」
女「え?」
男「あなた、懐かしい匂いがします。こうして対面しているはずなのに、
顔も見えないし声もわからないけど」
男「でも、懐かしい匂いがします」
女「……」
女「……全部、持っているのよ」
男「え?」
22:名無しさん@おーぷん:2015/04/29(水)00:39:06 8jt
女「優しさも、愛する心も、勇気も暖かさも」
男「……?」
女「あなたは全部、持っているのよ。でも……強さがなくて…」
男「つよさ……」
女「……」
男「……」
女「たくましく、生きて欲しいのよ…」
ザザ…
男「……僕は、」
23:名無しさん@おーぷん:2015/04/29(水)00:42:38 8jt
男「きっと、僕は死んだのですね」
女「……」
男「とても平和的で、勇気も優しさも持っていた。でも、僕は苦しんで死んだのですね」
女「……」
男「わからないです、今も。僕がどう苦しんで死んだのか。
でも、ひとつわかったことがあります」
男「ここは……僕の、再び生きるためにある場所だ」
女「……」
女「ねえ…苦しんで欲しくないのよ」
24:名無しさん@おーぷん:2015/04/29(水)00:47:32 8jt
女「笑って、生きて欲しいのよ」
男「……チカラを持って、権力を持って、」
男「たしかに、生きやすいかもしれません。笑って過ごせるかもしれません」
男「でも、」
女「……」
ザザ…ザプ…
男「僕がありのままで生きたいように、自分を造り上げたのに、
そんな僕を殺してまで産声を上げたくないんです」
女「……でも」
男「大丈夫です」スッ
男「望み通りです。幸せになれないはずがない」
25:名無しさん@おーぷん:2015/04/29(水)00:50:45 8jt
男「きっと…諦めてしまった。でも、次は決して諦めないです」
男「自分に誇りを持って、生きます」
ザザ…ザザ…
ギィィ…
女「……もうすぐ、岸につくわ」
男「たくさん、ありがとうございました」
女「……」
男「……」
男「そんな、悲しそうな顔をしないでください」
男「誰も悪くない、きっと。大丈夫です」
男「大丈夫です、お母さん」
26:名無しさん@おーぷん:2015/04/29(水)00:54:21 8jt
男「胸を張って、産声をあげます」
女「……」
男「僕のこれからの人生が、右胸いっぱいに幸せが詰まりますように祈ってください」
ギィィィイ…
男「では……また後で」
おわり
27:名無しさん@おーぷん:2015/04/29(水)00:56:03 8jt
thanks→RADWIMPS「オーダーメイド」
誰も見てないだろうけど、お粗末様でした。
29:名無しさん@おーぷん:2015/04/29(水)01:00:25 mWn
>>27
読みながらオーダーメイド思い出したけど、やっぱりそうだったのね