ねこのめ

ねこのめみたいにくるくる回る日常の出来事

「ベストセラー構造」の壁に挑んだ作家たち

【第10回 「ベストセラー構造」の壁に挑んだ作家たち(2)『1Q84』論争の裏にあるもの】

都心の大型書店やアマゾン・コムを使い慣れている人は、
たとえ少部数しか出版されていなくても、自分の求める本に比較的楽にアクセスできるが、
郊外型書店しか本のアクセス先がない読者は、「ベストセラーになっている本」以外に、
どのような本が存在しているのかを知る機会が、きわめて限られている。

郊外型書店で少ない品揃えの中から本を買うしかない「知的下流階級」は、
ベストセラーを生みだす主体となることで、出版ビジネスを経済的に下支えしているにもかかわらず、
知識人からは「あまり知的ではない」読者として貶められ、多様な本にアクセスする機会も奪われている。

つまり、二重の意味で割を食う立場にいるのである。

「ベストセラーを読んでいる人が自分の周りにはほとんどいない」と感じるのは、
作家や編集者、評論家といった、本の流通過程の上流にいる人だろう。

私も含め、そうした人たちは、たっぷりとした選択肢の中から好みの本を選べる「強者」であり、
出版不況を憂う声も、文学作品の質的低下を嘆く声も、その多くは「強者」から出ている。